伊豫銘砥 / iyomeito
伊豫銘砥 斜陽
2025.06.30伊豫銘砥
伊豫銘砥には、斜陽と呼ばれる砥石があります
名前の通り美しい橙色の砥石ですが、なぜ夕日、夕焼け、黄昏ではなく斜陽という名前にしたのか
命名したときの気持ちを忘れないうちに書き起こそうと思います
まず「夕日」について、この言葉を聞くと、橙色の太陽がポンと頭に浮かびます
その言葉には裏も表もなく、ただ静的な夕刻の太陽を思い浮かべるのです
次に「夕焼け」という言葉を聞くと、夕日の周りの橙色に染まった雲や空まで思い浮かぶことでしょう
この言葉には夕日の存在する背景までもが含まれているような気がします
そして「黄昏」という言葉には、夕日の染める夕焼け空と、その空間にある空気の質量までもが表現されているように思います
肌に触れる風の温もり、音、香り、雰囲気までもを映し出してくれるのだと思います
「斜陽」
夕焼けに触れる黄昏は、一日が終わりに近づくことを伝え、斜陽という言葉は、伸びる影に夕日の沈んでゆく時間の経過すらも表現しているように思います
人間の哀しさや愛おしさが投影され、人間的な感情をも内包している言葉なのだと思わせてくれるのです
「斜陽」という言葉は、少しずつ、一歩ずつ確実に近づく終わりを、斜陽産業である天然砥石事業や、使うたびに失われていく砥石のように、いずれ訪れる哀しい終わりと、それを分かりながらも消失までの過程を愛してしまう葛藤を、美しく表現してくれる言葉なのだと
僕はそのように思うのです